1.美潮





「おきろ、おい!狼牙!」

「・・・あ?久那妓?何だ、もう欧州に着いたのか・・・?」

「・・・そうだったらどれ程良かったか。いいか、落ち着いてよく聞け。
 どうやら今私達がいるのはキュウシュウらしい。そこの少女がそう言ってるのだからな。間違いない」

「はあ?キュウシュウって・・・何で海外に出る船に乗ったのに戻ってきてんだよ。
 ・・・ところで、お前、誰だ?」

「・・・河野美潮」

「河野美潮って・・・おい、俺の記憶が正しければ、コイツは確か・・・」

「そうだ。私達の世界ではスカルサーペントの番長だった河野美潮だ。
 ・・・そう、ホーリーフレイムの人間達に殺されてしまい、この世にいる筈のない、な」

「いや、だからなんで生きてるんだよ。おかしいだろ。確かスカルサーペントは奴等に皆殺しにされた筈だ。
 言いたくはないが、ホーリーフレイムの奴等が情で生き残らせた、なんてする訳がねえ。
 あいつ等は日本人を皆殺しにするつもりでいたんだからな」

「それはあくまで私達の世界の話だ。現にこの世界では、河野美潮はスカルサーペントに属してすらいなかった。
 この娘は先程、ホーリーフレイムの男どもに殺されそうになっていたところを私が助けた。
 どうやら孤児院に住んでいたらしいのだが、その孤児院が焼かれたらしくてな。
 私が情報を集める為に偶然通り過ぎたのが不幸中の幸いだった」

「・・・なあ、河野美潮を助けた経緯までは分かった。だが、さっきから『この世界』っていうのは何だ。
 『私達の世界』とかいう表現といい、まるでこの世界が俺達の世界とは別世界みたいな言い方してるじゃねえか」

「・・・察しが悪いな。その通り別世界だと私は言っているんだ」







 ・・・





「・・・あー、まあ、言いたいことは大体分かったわ。この世界は俺達の世界とは別世界。
 その証拠に、スカル、ホーリーフレイム、護国院、ナイトメア、PGGが健在している。
 また、この世界が俺達の世界の過去だというのは在り得ない。何故ならスカルにそこの美潮がいないから。
 未だ半信半疑だが、目の前に生きる証拠がある以上、信じない訳にはいかねえだろう」

「それで、これからどうする?・・・と、言ってもお前のことだ。どうせ決まっているのだろう」

「へっ、察しがいいな。流石は俺の惚れた女だ。
 無論、強い野郎と戦うつもりだ。舞台が欧州から、コッチに移っただけだ。問題ねえよ」

「予想通りか・・・まあ、それは構わん。だが、神威の件はどうする。恐らく、この世界でもヤツは存在するだろう」

「同じ手順を踏めば問題ねえよ。こっちには別世界とはいえ、一度辿った道がある。
 それに、今の俺達が勝てない相手なんて存在しねえ。いや、昔から俺達に負けはねえ。そうだろう?」

「フ・・・その通りだな。では先ずはどうする?前回のように拠点を据えるべきだが、闘京まで行くか?」

「いや、手っ取り早くスカルサーペントの戦力全てをそのまま頂こうぜ。
 上手くいけば、ホーリーフレイムも吸収出来る。・・・俺達は奴等の神がどれだけ腐っているか知っているからな」

「出来るか?スカルの総長を務める蛇王院空也はかなりの使い手らしいが」

「お前は俺が負けると思うか?」

「・・・愚問だったな。お前は私の男だ。負ける筈がなかったな」

「よし、道は決まった。まずはスカルに乗り込んで空也をブッ飛ばして戦力を丸々貸してもらおう。
 ・・・それで、河野美潮だったか。お前はどうする?」

「・・・先程から言っていること、本気なのですか?スカルサーペントもホーリーフレイムも一筋縄でいく相手ではありません。
 いえ、それ以前に二人だけで倒そうなんて無茶です。無謀です。自殺願望です。ありえないです」

「へっ、なんだよ。心配してくれてんのか。一丁前に。
 心配は嬉しいが、俺達は負けねえよ。かかってくる奴等は蹴散らすだけだ」

「ッ!馬鹿です。貴方は正真正銘の大馬鹿です。そんな考え無しでは命が幾つあっても足りません」

「ほう、コイツの本性を一目で気付くとは。美潮、お前は見る目があるな」

「久那妓、テメエ・・・まあいい。それで、どうするんだ?
 このまま別れてもいいが・・・そうだな、お前、俺達と来る気はないか?
 俺達と来ればこんなところに一人でいるよりも何倍も面白い世界を見せてやるぜ。それこそ、休む暇もないくらいな」

「私も・・・ですか・・・?」

「ああ。お前だって、争いばかりのキュウシュウを変えたいだろ?
 お前にはその力がある。それだけの力を持ってるのに、虐げられるだけなんて馬鹿みたいだろ。
 それに、後数年待てば、お前は凄い良い女になりそうだしな。ま、蛇王院には悪いがな。俺もお前を気に入っちまったんだよ」

「え・・・あ・・・あう・・・で、ですが、その・・・」

「私か?私は構わん。それにお前のような意志の強い人間なら何人でもコイツの愛人になって欲しいくらいだ。
 この馬鹿は守る人間が増えれば増えるほど強くなるからな。そうだな、美潮。お前も狼牙の愛人になるといい。
 無論、この狼牙のことが嫌でなければだがな」

「・・・本当に、キュウシュウを救えるんですか・・・?」

「ああ、任せとけ。嘘は言わねえよ。何なら約束したっていいぜ?破ったら命でも何でもくれてやるよ。
 ・・・そうだな。もしキュウシュウを俺達の手で救ったら、俺の女になれよ。それでいいか?」

「・・・分かりました。もしそうなれば、私は喜んで貴方の女になります。
 ・・・その、別に、貴方のこと、嫌いではないですし・・・」

「へっ、決まりだな。それじゃ、行くか久那妓!まずは海王学院だ。
 直接乗り込んで、頭の蛇王院空也をブッ飛ばして何が何でも協力してもらうぜ」











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