14.女性陣










華苑を仲間に加え、狼牙達は夜も近くなってきたということで三国に宿を取った。
そして、団体用の一室を借り、その日の疲れを癒していた。
最初は一人一人個別の部屋を借りようとした狼牙だが、
女性達(主に華苑と扇奈)が互いに初見の人も多いのだから、
色々話をして親交を深めたいという希望を述べた為、女性達はこのように団体客用の部屋を借りたのだった。
ちなみに狼牙は現在、このホテルにはいない。真央を海王学園に送りに行った為だ。
B能力を持っていない真央では、流石にナイトメア・アイズのど真ん中に切り込もうというこの旅には
同行されられないのだ。その決断を華苑が即座に出し、真央もすぐに了承した。
よって現在、この一室には女性陣だけということになっているのだ。

「しかし、狼牙も無茶苦茶ですわ・・・これだけの戦力でナイトメア・アイズに乗り込もうだなんて」

「別にナイトメアの全戦力と戦う訳ではないからな。
 私達はカミラ・バトリーを操っている装置破壊だけを目的に動けばいいだけだ」

「私は是非ともナイトメア・アイズの総長さんと一戦交えてみたいのですが・・・」

「ふむ・・・その意見には私も同意だが、カミラ・バトリーは狼牙殿の仲間なのだろう。
 ならば私達のすべきことは彼女を解放する為に狼牙殿の敵を排除していくだけだ」

現在、部屋に残った華苑、久那妓、扇奈、ジャンヌがこれからについて雑談を交えて話し合っていた。
ちなみに、美潮とエクレールはマリーシアの誘いを受け、観光目的で外に遊びに行っている。
時間も遅く、三人の外出にはいささか問題がありそうだが、残るメンバーは誰一人止めようとしなかった。
何故ならマリーシアにエクレール、外見に似合わない武を持つその二人がいるのだ。まず問題などありえないだろう。

「私としてはカミラ・バトリーの裏側にいる男が目覚めているかどうかが気になるが・・・
 それと、闘狂のメンバーだな。恐らく、咲苗達はまだ聖城学園にいるだろう。この旅でなるべく接触したい」

「咲苗さんですか・・・懐かしい響きです。
 そうですね、闘狂の方々には私も以前良くして頂きました。
 ですから、なんとしても会いたいのですが、今あの場所は・・・」

「護国院とPGGの戦争のド真ん中ですわね。
 こちらでは両軍、私達の知ってるよりも遥かに大きな力を持ってますわ。それこそ倍近い程に。
 今はまだ均衡が保たれてますけど、私達の介入が一つ間違えば大きな火種になってしまいますわ」

「だが、逆にチャンスでもある。我々が闘狂を抑えれば、護国院を挟撃できるからな。
 もし、闘狂を攻め落とそうと軍を出せば我々が後ろから護国院を叩けばいい。
 逆に我々を攻め落とそうと軍を出したのならば、闘狂が後ろから護国院を攻めればいい。
 そして、狼牙殿がナイトメアを抑えることが出来れば、それはPGGにも同じことが言えるだろう」

「うむ・・・キュウシュウ、闘狂、トランシルバニアを抑えられれば、戦力差の問題が大きく片付く。
 仲間を探すのも大事なことだが、私はこの問題を解消することが一番大事なことだと思っている」

「仲間集め・・・それにしても、どうして皆は狼牙の元に集らないのかしら。
 沙枝さんやシオン、咲苗さんは狼牙の噂を聞けばすぐにでも動きそうな感じですのに」

「恐らく華苑と同じで動くに動けぬ事情があるのだろう。
 まあ、大体の予想はつくがな。恐らく、沙枝は咲苗の傍にいると私は思う。シオンはそのままアオモリだろう」

「理由、分かりますの?」

華苑の言葉に、久那妓は『想像の範疇だが』と答え、口を開く。

「もともと咲苗は聖城学園に平和を取り戻したいと思っていたからな。
 だから最初、彼女はその為に狼牙の女になった。そんな聖城が今や戦場と化しているのだ。
 生徒達を見捨てて自分だけが狼牙の元へ来るなど咲苗には出来はしまい。
 華苑だってもしキュウシュウの争いが終結していなかったら、
 学連を他人に任せて狼牙の元へは来なかっただろう?」

「まあ・・・確かにそうですわね」

「多分、その推測はあってると私も思います。咲苗さんは聖城に強い想いを持ってますから」

「まあ、その辺りの理由が妥当だろうな。
 そして、沙枝だが、彼女が記憶を持っているなら他の誰よりも早く動けた筈だ。
 護国院の監視などただの一忍者である沙枝にある筈もないからな」

「それなら、沙枝さんこそ真っ先に狼牙の元へ動くのではなくて?」

「いや、沙枝は何より狼牙の考えを遵守しようと考えるだろう。
 彼女の情報収集能力なら、狼牙の傍に私や美潮、空也達がいることをすぐに掴んだ筈だ。
 ならば、戦力が有り余ってる狼牙の元に行くよりも、闘狂で他の仲間達の戦いを手助けする方が
 狼牙の助けになると考えたと思う。沙枝はその判断が出来る女性だからな」

軽く一息ついて、久那妓は話を続ける。

「シオンは恐らくリオン絡みの問題だろう。こちらの世界にリオンはまだ存在していない筈だ。
 ならば、少しでも早くリオンと再会するには月臣鬼人の力が要る。
 シオンの力ならば鬼人を一人捕まえることだけならば容易な筈だ。そうなれば、リオンも生まれている頃だろう。
 狼牙と合流するならばリオンが身体に慣れてからと考えるだろうな」

「成る程・・・久那妓さん、貴女は本当に仲間のことを見てますのね」

「そういう訳ではない。ただ同じ狼牙の女として興味があるだけだ。
 自分の男が愛する女がどのような人間なのか知りたいと思うこと、それは当然のことではないか?」

「・・・そういえば、私達ってみんな狼牙さんの女ですね。
 わあ、なんだか凄く親近感が沸きますね!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ扇奈。私は狼牙殿を守る剣であり、断じて狼牙殿の女ではないのだが・・・」

「でも、好きなんでしょう?狼牙の事。早く素直になった方が楽ですわよ。私もそうでしたもの」

「なっ、ち、違っ!!私は一人の人間として狼牙殿を尊敬しているだけでっ!!」

「違うんですか?」

「うう・・・」

慌てるジャンヌに、華苑とは楽しそうな笑みを浮かべて追求する。
それを見て、久那妓はやれやれと軽く肩をすくめて息をつく。これではまるでどちらが年上か分かったものではない。

「さて・・・こちらでは神威はどう動くのだろうな。それに未だ所在の掴めぬ斬真豪、か・・・」

久那妓の呟きは余りに小さな声で、その場の誰もが聞き取ることが出来なかった。












 ・・・










一方、美潮達は三国内で開かれているお祭りを三人で観光していた。
出店や屋台を見て回っては、歳相応の子供のように振舞うマリーシアを美潮は苦笑しながらも楽しんでいた。
そして、ふとエクレールが浮かない顔をしているので、美潮は声をかける。

「どうしましたか、エクレール。お祭り、楽しくありませんか?」

「いえ・・・そんなことはないわ。びっくりするくらい楽しい・・・
 だからこそ、不安になるの・・・私、貴女達と一緒にこんな風に楽しんでいていいのかって」

「・・・一体何を気にしているのですか貴女は。
 そんなの当たり前でしょう。折角お祭りに来ているのですから、楽しまないと損ですよ」

「でも・・・私、この風景を壊そうとしてたのよ?日本人なんかみんな滅べばいいって思ってた・・・
 私、ジャンヌ様のように強くなれない・・・あんな風に割り切れない・・・
 だって、私が日本人を殺したことに変わりはないもの。そうでしょう、美潮・・・私は貴女の大切なモノを・・・」

エクレールの言葉に、美潮は大きな溜息をついて視線を彼女に向ける。
一瞬威圧されたエクレールだが、美潮の次の行動によってその表情が驚きのものへと変わる。
美潮がエクレールの手を取り、無理矢理引っ張って歩き出したのだ。

「ちょ、ちょっと美潮・・・」

「貴女の事情なんて知りません。後悔するなら勝手に後悔してて下さい。
 でも、私は貴女を絶対に恨みません。ええ、決して恨んでなんかあげるものですか。
 私は絶対に前を向いて歩き続けます。今、自分の手にある大切な日々を絶対に手放したくありませんから」

「美潮・・・」

「・・・全ては終わったことでしょう?それを理由に私は貴女を恨んだりなんか絶対にしません。
 過去に囚われて、貴女とのこれからを失うほうが、私は嫌です。絶対に嫌です。
 私達は友達ではないのですか、エクレール。もし少しでもそう思って頂けているのなら、
 二度とそんなことを言わないで下さい。大切なのは『これから』、そうではないのですか」

言葉をぶつけられ、呆然とするエクレールだが、美潮の伝えたかったことが心に入ってくる。
ああ、彼女はこんな自分を友達だと言ってくれているのだと。こんなにも酷いことをした私を。
瞬間、涙腺が緩み泣きそうになる。だけど、ギリギリのところでエクレールは踏みとどまった。
今、必要なのは涙じゃない。美潮に伝えたいのは、そんな気持ちじゃない。
エクレールは美潮の横顔を眺めながら、最高の笑顔を浮かべる。
それは、彼女がずっと失っていた笑顔。常に戦場を駆け抜けた少女が、ようやくただの少女に戻れた証。

「ありがとう・・・美潮、貴女と出会えて本当に良かった」

少女の言葉を、美潮は聞こえない振りをしてマリーシアの元へと引っ張っていった。
きっと、今彼女の言葉に返答してしまうと、照れる余り冷静さを保てなかっただろうから。














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