16.闘京平定










状況からいうと、戦争寺と護国院の混成部隊は追い込まれていた。
もともと、獄煉との争いに戦力を各地に分散させていたところに、狼牙達が強襲をかけてきたのだ。
少数とはいえ、一騎当千の狼牙達の猛攻を彼等では防げる筈も無かったのだ。
狼牙と華苑が切り込み、マリーシアと美潮という後詰めによって彼等は学園まで下がるしかなかった。

「来たか・・・斬真狼牙よ。死魔根からワザワザご苦労なことじゃのう」

「へっ、大した労力じゃなかったがな。それよりアンタがここの番長か」

「いかにも。ワシが戦争寺学園の番長、金剛丸三蔵だ。人はワシを鉄壁の金剛丸と呼ぶな」

「金剛丸・・・はて、どっかで聞いたことがあるような・・・」

「貴方ね・・・ちょっと会わない間に副長の苗字を忘れるなんてメチャクチャね」

呆れたような声をかけられ、その声の方向に狼牙は視線を向けた。
そこには狼牙軍団の副長を務めていた金剛丸彩が溜息をついていた。

「おお、彩じゃねえか。副長・・・つーことはお前も記憶があるんだな」

「ええ、その様子だと貴方や華苑さんもあるみたいね。
 大悟が覚えてなかったから、不安だったんだけど・・・よかった」

「俺達だけじゃなくて他にも何人もいるぜ。まあ、その話は後回しにして、だ。
 俺達はどうしてもこの闘京の地を押さえたい。その為にも、お前の兄貴をブッ飛ばさなきゃならねえんだが・・・」

「別に構わないわよ。私は一応止めたもの。兄さんじゃ貴方には勝てないって」

「おいおい、俺が言うのもなんだが、そんなことハッキリ言っていいのかよ・・・」

「いいのよ。私が何度護国院と手を切るように言っても聞いてくれないし。
 いつまでも獄煉なんかと下らない縄張り争いしてるような馬鹿兄に私は味方するつもりなんてないわ」

キツイ彩に、狼牙は苦笑しながらも三蔵の方へと向き直る。
だが、彩の言葉に三蔵は思いっきりショックを受けて凹んでいた。それこそ再起不能なまでに。

「・・・おい、どうするんだよコレ。お前のせいで闘えなくなっちまったじゃねえか」

「別にいいじゃない。どうせ私達、戦争寺は敗北確定だもの。今更兄さんと闘ってもしょうがないでしょ。
 それに、獄煉もどうやら壊滅したみたいだしね。これも貴方の仕業でしょう?」

「ああ、向こうは久那妓達が抑えてくれてるからな。何にせよ、これで闘京を押さえることが出来た訳だ。
 あとは聖城に向かうだけか。勿論、お前も俺達に付いてきてくれるんだろ?」

「当たり前でしょう。私だって元の世界に戻らないといけないもの。
 ・・・兄さんにもう一度会えたことも、充分嬉しかったしね」

彩の困ったような笑顔に、狼牙は目の前の男、金剛丸三蔵が自分達の世界では神威に殺されたことを思い出す。
言葉に詰まった狼牙だが、彩が軽く首を振って気にしないでと笑って告げた。
そんな彩に、狼牙は笑ってみせる。

「さあ、早く聖城に乗り込んで闘京を征圧しましょう。
 貴方の仲間も多分、もうそっちへ向かってるんじゃないかしら」

「流石、頼りになるぜ。流石は狼牙軍団の副長だっただけのことはあるな」

「茶化さないで。早く向こうの世界に帰らないと、仕事が沢山溜まってるのよ。
 どこかの誰かさんが私に押し付けたまま海外に行っちゃったからね」

狼牙と彩のやりとりを見て、美潮はなんとなく彩に共感を抱いていた。
――この人は、何故か私と同じ種類の気苦労をずっと抱えていた、そんな気がすると。













 ・・・











「さて、どうする狼牙」

聖城に辿り着き、合流した久那妓の発言に狼牙は首を傾げる。

「あ?どうするもねえよ。アギトの野郎をブッ飛ばして咲苗に会えば終わりじゃねえか」

「そうか。この歓迎振りを見るに、私はそうは思わんのだがな・・・」

久那妓の言葉に、その場の誰もが彼女の意見に同意せざるを得なかった。
聖城に辿り着き、グラウンドに足を踏み入れた瞬間、多数の生徒達に狼牙達は囲まれてしまった。
それこそ十人や二十人ではない。明らかに学園の大多数の生徒が狼牙達を取り囲んでいるのだ。

「めんどくせえな・・・どいつもこいつも知った顔ばかりじゃねえか。
 この世界では違うとはいえ、元々仲間だった奴等をぶん殴るのは趣味じゃねえんだが・・・」

「・・・その割には貴方、さっき本気で大悟を殴ってたわよね」

「あ?そりゃ別問題だろ。あいつスゲー鬱陶しかったしなあ・・・思わず手が出ちまったんだよ」

「元仲間を殴るのは趣味じゃない、ねえ・・・」

「いいじゃないか。どうせ私達の知ってる堀田大悟とは別人なんだ」

溜息をつく彩に、京子が笑って答える。
どうしたものかと生徒達を睨む狼牙達だが、突如、彼等が輪を解いて道を空ける。
その中央には彼等の知っている女性徒が立っていた。

「ありゃ?何だ、誰かと思えば大将じゃんか。
 てっきり戦争寺か煉獄の奴等が来たのかと思ったよ」

「お前、剣道じゃねーか!何やってんだよ。アギトの野郎はどうしたんだ?」

「何やってるって、そりゃアタシの台詞だよ。今まで何処ほっつき歩いてたのさ。
 沙枝さんが『必ず狼牙様はここに来る』って言うから待ってたのに、いつまで待っても来やしない。
 仕方ないからアタシ達だけでアギトの馬鹿を倒しちゃったんだよ」

剣道の言葉に、狼牙は一瞬理解できなかったものの、事情を聞いてようやく納得した。
そして、剣道達の無茶苦茶っぷりに思わず笑ってしまう。

「おいおい、仮にもアギトの野郎は番長だろう?そんなに楽な相手だったか?」

「楽も楽。ザコだよありゃ。私や咲苗に沙枝さん、ユキにきなこに瑞貴は向こうの記憶があるからね。
 私達が戦ってきたホーリーフレイムの騎士連中や真宿の魔物達の方がよっぽど手ごわかったよ」

一瞬、ホーリーフレイムの名前にジャンヌとエクレールがピクリと反応する。
剣道は狼牙達一行を見て、ふふんと何かを確認したように頷いた。

「知ってる顔が沢山あるってことは、みんなも大多数は記憶持ちってことだね。
 まあ、上がりなよ。積もる話も沢山あるだろうし、何より咲苗達は大将が来るのををずっと待ってたんだからね」

楽しそうに笑う剣道に、狼牙も笑い返すしか出来なかった。
しかし、これで狼牙は闘京の地の争いを完全に平定したことになる。
これは後に大きな意味を持つことになるのだった。














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