17.ジャンヌVS剣道










今となっては懐かしさすら感じる聖城学園の生徒会室で狼牙達を待っていたのは懐かしい顔ぶれだった。
咲苗や沙枝をはじめ、狼牙軍団に所属していた聖城の生徒達がそこに集っていたのだ。

「斬真君、久しぶりね。他のみんなも」

「おう、委員長。俺達を見てもあんまり驚かないんだな」

「ええ。一応、沙枝さんから斬真君はどうやら私達と同じく『記憶』があるみたいだって教えてもらってたもの。
 いつかここに来ると思っていたわ」

「そいつはまた変な話だな。俺は沙枝とはこっちでまだ会ってなかったよな?」

「はい。ですが、狼牙様のお傍に久那妓さんやマリーシアさんがいるという情報を得ていましたので」

「なるほど。久那妓はともかくマリーシアとこの時期の俺が一緒にいる理由は一つしかないってことか」

「狼牙、私達は先にすべき話があるのでは」

納得した狼牙に、横から美潮が横槍を入れる。
そうだった、と思い出したように狼牙は咲苗の方へと向き直る。

「委員長、俺が今死魔根の海王学園を拠点に狼牙軍団を展開してるのは知ってるよな?」

「ええ。何でもスカルサーペントをそっくりそのまま奪ったって聞いてるわ。
 その上あのホーリーフレイムまで撃退したとも。相変わらず無茶苦茶するんだから・・・」

「まあな。そういう訳で、俺達は後々護国院とPGGを抑える為にも
 その二点の中間地区・・・つまり、この闘京エリアが必要な訳だ。協力してくれないか?
 つーか、そのつもりだからこそ委員長達は獄煉や戦争寺を攻めなかったんだろ?」

狼牙の言葉に、咲苗は『ええ』と頷いた。
真宿での激戦を生き抜いた彼女達だ。闘京エリアを平定しようと思えば出来たはずだ。
だが、あえてしなかったのは狼牙を待っていたからだ。狼牙を救世主として闘京に知らしめるため。

「私達はすぐにでも協力したいのだけど・・・」

「どうした。何か問題でもあったか?」

言葉を濁す咲苗に久那妓が尋ねかける。
言いにくそうな咲苗に代わって、剣道が言葉を拾う。

「ウチの生徒達の結構な人数がさ、今のままじゃ狼牙軍団の傘下に入ることを納得しそうにないんだよ。
 確かに闘京を救ったのは大将達だけどさ、アギトを追っ払ったのは私達だからね。
 そりゃ、自分達を導いてくれた咲苗がトップだったのに、見ず知らずの大将がリーダーなんて言われても
 他の生徒達は納得出来ないでしょ。大将達の強さを直接見たわけじゃないし、みんな不安なのさ」

「めんどくせえなあ・・・要はあれだろ?生徒達に俺達の強さを示せばいいんだろ?
 たとえ護国院やPGGを敵に回しても、絶対に負けないような強さをよ」

狼牙の言葉に、剣道は楽しそうな笑みを浮かべる。
そして咲苗は溜息をつく。どうやら今から剣道が提案することに咲苗はあまり良いとは思っていないらしい。

「そこで、こういうのはどう?
 聖城の生徒達の前でウチの番長と大将のところの番長が一騎打ちするの。
 で、負けた方が勝った方の傘下に入るの。番長といえばその集団の力の象徴でしょ?
 番長が負けたら聖城の生徒達も納得すると思うんだよね」

「ほう・・・剣道、お前にしちゃ最高のアイディアを出すじゃねえか。
 それなら分かりやすいし、俺も存分に闘えるってもんだぜ!!」

「いや、大将は戦っちゃ駄目でしょ。だって大将って総長じゃん。
 総長が出たらウチも総長出さなきゃいけなくなるじゃない。大将、咲苗殴れんの?」

「げ・・・」

「そういう訳でそっちから大将以外で一人強い人を出してよ」

「・・・ちなみにそっちは誰が出るんだよ」

「勿論私だよ。きなこや瑞貴はやる気ないし、ユキや沙枝さんは嫌がるし。
 ま、消去法の番長さ。勿論、誰が出てきてもそう簡単に負けるつもりはないけどね」

「いや待て!つーかお前がワザと負ければいい話じゃねえか!!」

「いやー、八百長したって面白くないっしょ。それに大将の傍には私より強い奴なんてワンサカいるし。
 ほらほら、早く誰がいくか決めてよ。私本気で楽しみにしてるんだからさ。出来れば剣使いがいいなあ」

剣道の言葉に、狼牙はようやく彼女の本音を理解した。
彼女は色々と理由付けしているが、結局のところこの機会を利用して腕試しをしたいだけなのだ。
狼牙は呆れると同時に羨ましく思った。自分も総長の立場でなければ喜んで参戦しただろうにと。

「・・・あ〜、とりあえず扇奈かジャンヌ、どっちか行ってくれ」

「え〜と・・・流石に剣道さんと斬り合うのはちょっと・・・」

「ならば私がいこう。どうやら彼女は最初からそのつもりらしいからな。
 さきほどから私の方ばかり見ている」

「あ、分かる?へへっ、実はアンタとは一度剣を交えてみたかったんだよね。
 何の縁かは分からないけど、今こうしてアンタは大将の傍にいる。このチャンスを活かさない理由は無いよ」

「・・・何を言っているのかよく分からんが、狼牙殿、本当に良いのだな?」

「ああ、剣道にお前の力を見せてやれ。剣道、言っとくけどジャンヌは多分叢雲以上に強いぞ?」

「望むところさ。自分より強い相手と戦ってこそ意味があるってもんだよ」



















 ・・・


















校内放送により、聖城の生徒達は全員グラウンドに集った。
彼等の中央、視線の先にはジャンヌと剣道が対峙していた。ルールの説明も先程終えたばかりだ。
負けた軍団が勝った軍団の傘下に入る。しかし、それは決して従属ではないこと。総長の同意の元であること。
全てを終えた今、二人の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

「そういえば名を聞いてなかったな。私は狼牙軍団が一人、ジャンヌ。貴女は」

「中西剣道。神の代行者ジャンヌ・・・へへっ、嬉しいよ。アンタと戦う機会をくれたこの変な運命に感謝したいよ」

「神の代行者、か・・・その名はとうに捨てた。この身は唯の一振りの剣であり、狼牙殿と民の為にある」

「・・・強いね。肌で感じるよ。向こうのアンタ以上の強さだ。本当、大将もまたとんでもない人を仲間にしたもんだ」

剣道は笑って呟いた後、真っ直ぐにジャンヌの元へと駆けた。
奔る竹刀をジャンヌは剣で受け止める。その硬直を剣道は見逃さない。続けざまにもう一方の竹刀で斬りつける。
しかしその剣はジャンヌへ届かない。一方を受け止めた体勢のままでジャンヌは身体を宙に翻し、後方へ飛ぶ。
獲物を失った竹刀は地面へと叩きつけられる。あまりの剣撃に、ジャンヌのいた場所に軽く穴が開いた。
剣道の竹刀は特別制であり、芯が通っている。いくらジャンヌでも、直撃をくらえば唯では済まないだろう。
後退したジャンヌを追う様に剣道は疾走する。そして、繰り出される技の数々。
切り、薙ぎ、払い、突き、それはまさしく怒涛というに相応しい嵐。普通の相手なら即この嵐に身を切り刻まれて終わりだろう。
剣道は一度だけとはいえあの叢雲静梨を倒して見せた程の腕前の持ち主なのだ。そして、真宿の戦いも生き抜いた。
恐らく、実力だけならば狼牙軍団の中でもかなり上位に入るだろう。
――だからこそ、相手が悪かったとしか言いようが無い。剣道の相手は他ならぬ、神の代行者ジャンヌ。
彼女が狼牙軍団上位の力の持ち主ならば、ジャンヌは狼牙軍団でも五本の指に入るほどの実力者。
剣道の剣戟を受け止め、ジャンヌは剣道の瞳を捕えて告げた。

「剣道と言ったか。貴女の実力はなかなかのものだ。おそらく、エクレール達でも敵わないだろう。
 だが、私は負ける訳にはいかん。今の私は狼牙殿の剣・・・決して折れることの無い一振り。
 狼牙殿がその大役を成し遂げるまでは、私は誰にも負けるつもりはない。それが私の誓いだ」

「だったらその剣で示してみせなよ。大将の見てる前で、この私に勝つことでさっ!!」

振り下ろした竹刀をジャンヌは弾き、流れるような剣裁きで反撃に移った。
その剣技は神技。時に烈火、時に流水。状況によって幾多幾様にも表情を変える剣技に剣道は顔を顰める。
何て無駄の無い、そして隙の無い攻撃なのだろう。受け止め、致命傷を喰らわないようにするのが精一杯な程の嵐。
そして、強烈な剣戟を受けて剣道が怯んだ瞬間をジャンヌは決して逃さなかった。
身体ごと剣道にぶつけ、剣道を地面に押し付けた。そして剣を喉元に突きつけ、二人の剣士の斬り合いは終わりを告げた。
周囲で見ていた生徒達から驚きの声が上がった。番長である剣道がここまで圧倒的に負けたからだ。

「これまで・・・かあ。あーあ、やっぱり勝てないかあ・・・剣に迷い無く、道遠し」

「落ち込むことは無い。実際、これほどの剣士と出会えたのは久々だ。
 もうニ、三年すれば結果がどう転ぶか私も分からない」

「ふふ、ありがと。さて、と・・・そういう訳だよみんな!!
 今日から私達は狼牙軍団の仲間になるんだ!これは勝負の結果なんだから文句言わないでよ!」

そう叫び、剣道は狼牙の方を見て楽しそうに笑った。
確かに望んだ結果ではあったのだが、狼牙は何故か納得出来ないとばかりに再び大きく溜息をつくだけだった。

















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