3.マリーシア





「さて、と。大体の戦力はまとまったが、これからどうするんだ狼牙。
 早速ホーリーフレイムの連中とやりあうのか?」

「いや、その前にやることがある。今からホーリーフレイムの領域内に入り込んでマリーシアって少女を救出する。
 場所はここと同じ死魔根なんだが、お前等も知ってるように、死魔根でも向こう側の領地の方だ。
 その為に、空也。お前とシャイラには少しの間、ここの総長代理として働いてもらう」

「それは別に構わんが・・・そのマリーシアってガキは、何でまたホーリーフレイムの連中に捕まってんだ?
 名前からして、そいつはシャイラのように異国人だろう?あいつ等が同族を捕まえる理由なんて思いつかんが・・・」

「くだらねえ理由だよ。そいつ、背中に羽が生えてんだ。黒い羽が。
 何でもそれが奴等は気に食わないらしくてな。このまま放っておけば、奴等曰く悪魔の子マリーシアは
 確実に宗教裁判とかいうクソみてえな理由で殺されちまう。そんなことは俺がさせねえ」

「ヘッ・・・胸糞が悪くなる話だぜ。相変わらずホーリーフレイムの馬鹿どもは肝心なことが見えちゃいねえ。
 まあ理由は分かった。俺とシャイラでここは守るから安心して行って来い。
 お前等ならホーリーフレイムの連中に囲まれても負けることはないからな」

「ああ、行ってくる。あと、もし俺の留守の間に学連の奴等から招待されたら俺の代わりにお前が行ってくれ。
 総長は留守でも、空也が代理総長なら問題ないだろ」

「はあ!?おい、ちょっと待て!!お前、俺があんなところに出席なんかしたら場違いもいい所じゃ・・・」

「じゃあな。頼んだぜ」

「・・・クソ、行っちまいやがった。あの野郎、最初からこれが目的だったんじゃねえだろうな・・・」

「いいじゃないか。空也も総長を長いこと務めてきたんだ。
 場違いでこそあれど、総長代理としてはこれ程の人材はないんじゃないのかい?」

「・・・シャイラ、お前は俺がダンスを踊れるとでも思ってんのか」

「思わないねえ。まあ、恥をかくときはアタシも一緒に恥をかいてやるさ」

「何の慰めになってねえな・・・ったく、狼牙の野郎。さっさと帰ってきやがれってんだ」











 ・・・












「・・・なあ、久那妓はともかく、お前、何でついてきたんだ?」

「・・・お前じゃありません。私には河野美潮というちゃんとした名前があります」

「ぐ・・・美潮、おまえもしかして怒ってるのか?」

「別に怒ってません。ええ怒ってませんとも。
 貴方が私なんかに何も言わずにホーリーフレイムの領地に行こうとしたなんて全然怒ってませんとも。
 そうですね、私なんか貴方にとって部下の一人ですからね。別に何も言わずに出て行こうとしたことなんて
 少しも怒ってませんとも。ええ、全く怒ってませんとも」

「う・・・わ、悪かったよ。今回は俺が悪かった。
 おい、久那妓、お前も何か言ってやってくれよ・・・」

「どう考えてもお前が悪いだろう。女心を少しも読めん馬鹿め。
 大体、美潮の安全を考えるなら、お前が守ってやればいい。そんなことも思いつかんのか」

「・・・そうだな。本当に俺が悪かった、美潮。
 今度からは何処に行くにしてもお前は置いていかない。俺が守るからな。
 約束する。だから、もう機嫌を直してくれよ」

「・・・ふぅ。分かりました。今回はこれで許しますが、二度目はありませんよ。
 私だって・・・その・・・少しでも狼牙の力になりたいんですから・・・」

「美潮・・・ヘッ、可愛いこと言ってくれるじゃねえか。
 それじゃさっさとマリーシアを助けて帰るとすっか。確か俺の記憶ではこの辺の筈なんだが・・・」

「記憶?情報ではなくてですか?」

「ん、ああ。気にするな。大した違いはねえし、説明したところで多分駄目だろうしな。
 さてさて。じゃあちょっくら邪魔するぜ、っと。オラッ!!」

「・・・ドアを壊して、マリーシアがいなかったらお前は家の人間になんと説明する気だ」

「んあ?別に何もしねえよ。そんときゃ逃げるだけだ。
 おい、マリーシア!ここにいるのか!?」

「狼牙・・・さん・・・?」

「よし、ビンゴっ!助けにきたぜ、マリーシア・・・って、オイ、今お前何て・・・」

「狼牙さんっ!!」

「おわっ!?ま、マリーシア!?」

「狼牙さんっ!狼牙さんっ!私っ、私っ!!」

「お、おう、分かったから落ち着け、な?俺はここにいるから。
 だから泣くなよ。お前は笑ってた方が可愛いって前にも言っただろ?」

「ぐすっ・・・はいっ・・はいっ・・・」

「そうか。よし、良い子だ」

「落ち着いたか、マリーシア。早速だが、お前、私が誰か分かるか?」

「・・・はい、久那妓さん。多分、私もお二人と同じだと思います。
 私も気がついたら死魔根にいて、この羽根を見たホーリーフレイムの方々に捕まって・・・」

「そうか・・・お前も記憶が残ってるのか。いや、この場合、こっちの世界に飛ばされたって言ったほうがいいのか。
 ともかく話は後だ。俺達と一緒に来てくれるな?嫌だと言っても無理矢理連れて行くけどな」

「はいっ、私も一緒に連れてって下さい!
 その・・・私の居場所は狼牙さんの傍ですから・・・」

「・・・あの、私には何がなんだか全然分からないんですが・・・」

「えっと・・・狼牙さん、この方は・・・」

「ああ、こいつは河野美潮だ。そうだな・・・お前にはスカルサーペントの番長って言ったほうが分かりやすいか。
 色々あってな。その辺りの事情も帰ったら説明する。それと、美潮。さっきも言ってた通り、こいつがマリーシアだ。
 まあお前ら歳も近そうだし、仲良くしてやってくれ」

「えっと・・・マリーシアです。よろしくお願いします」

「河野美潮です。以後よろしくお願いします。これからはマリーシアさんとお呼びしても?」

「え、う、ううんっ!マリーシア、だけでいいですよ!
 その・・・私も、美潮さんとお呼びしても・・・」

「私こそ美潮だけで構いません、マリーシア。
 その・・・凄く綺麗な羽ですね。まるで天使みたいです・・・」

「ええ!?で、でも、そんな、えっと、えっと・・・あ、ありがとう、美潮・・・」

「・・・お前等、結構いいコンビかもなあ。
 まあいい。それじゃ戻るぜ。ホーリーフレイムの連中相手にするのも面倒だしな。
 あんまり長居し過ぎると空也が切れちまいそうだ」

「・・・もうとっくに切れてると思うがな、私は」











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