4.参謀





「よう、今帰ったぜ」

「おう・・・遅かったじゃねえか・・・」

「あ?・・・おい、シャイラ。どうして空也のヤツ、こんな真っ白になってやがんだ?
 俺はてっきりぶち切れてるかと思ったんだが・・・何かあったのか?」

「フフ・・・そっとしておいてやんなよ。アンタの言う通り、学連に召集されてね。
 総長代行として代わりに行ったら学連の総長代行にこっ酷く説教されてこの様さ」

「はあ?学連代行って華苑だろ?何で空也を説教する必要があるんだよ」

「空也はずっと学連の停戦の呼びかけを無視し続けたからね。
 まあホーリーフレイムがあんな状態だし、空也はもう総長じゃないからね。情状酌量で開放されたけど。
 あと、あのお嬢さん、アンタが来なかったことに凄く怒ってたよ」

「・・・まさか、華苑の奴、何か言ってたか。その、俺に関することとか・・・」

「ああ、バッチリ伝言頼まれたぜ。
 『次に直接来なかったら本気で愛想を尽かしますわ!この馬鹿!馬鹿狼牙!唐変木!』だそうだ。
 ていうか、俺が説教された理由はお前が来なかったことへの八つ当たりだった気がするんだが・・・」

「・・・ああ、どうやらそうみたいだな。悪いな、空也」

「別に構やしねえよ。それよりもそっちはどうだったんだ。マリーシアってのは助けられたのか?」

「ああ、問題ねえよ。マリーシア、挨拶しな」

「あ、はい・・・えと、マリーシアです。これからよろしくお願いします」

「へえ・・・俺は蛇王院空也だ。よろしくな、マリーシア。
 それにしても綺麗な羽だねえ。嬢ちゃんさえよければ、俺達の船のアイドルになって欲しいくらいだ」

「え、ええっと・・・その、えええ!?」

「ほら、空也。困ってるからあんまりからかわないの。
 アタシはシャイラ。シャイラ・スタンジールよ。これからよろしくね、マリーシア」

「は、はい!こちらこそよろしくお願いしますっ!」

「いや、俺は別にからかった訳じゃないんだがなあ・・・」

「フフ・・・マリーシアも自分の居場所は狼牙の傍って決めてるんだろ?
 人の女に手を出すような野暮なことしちゃいけないよ、空也」

「えええええっ!?い、いえっ!私はそんな、その狼牙さんの、お、女という訳ではっ」

「お前等、いい加減マリーシアで遊ぶのは止めろっつーんだよ。
 それより、早速だがホーリーフレイムについてだ。奴等は数こそ少ないが、兵士全員が鍛えられてるからな。
 攻め落とすのに中々骨がいるだろう。・・・っと、それはお前らの方が詳しいか」

「ああ、奴等はかなりの手練の集りだ。俺達が防戦しか敷けなかったのも理由はそこにある。
 そうだな・・・今の戦力だけで奴等を落とすのは少し厳しいな。まともにぶつかりあうことを考えたら尚更だ」

「アタシ達の時みたいに狼牙一人で突っ込むってのは?」

「あん時は俺達が既に死魔根領域にいたのと、海王学園の守りがホーリーフレイムとの戦いのおかげで
 薄くなってたから出来ただけだ。流石にホーリーフレイムの防衛ラインを一人で突破するほど俺は化物じゃねえよ」

「だろうな。ま、少数だけでホーリーフレイムを落とすような考えは早々に捨てたほうがいい」

「その通りだ。さて、どうする美潮。俺達はどうすれば奴等と有利に戦える?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「いや、え?じゃねえよ。話聞いてなかったのか。
 俺達はホーリーフレイムに勝ちたい。でも正攻法じゃ少しキツイ。それじゃどうすればいいかって聞いてんだよ」

「い、いえ。そうではなくて・・・あ、いえ、話は聞いてました。
 ですが、そこで何故私に聞くのかが・・・」

「だってお前、ウチの参謀だろ?作戦を参謀が考えるのは当たり前だろうが。
 狼牙軍団の総長は俺。副長は空也。参謀はお前。総長補佐が久那妓。副長補佐がシャイラ。
 マリーシアは癒し系担当な」

「癒し系は役職では・・・って、そうじゃなくて!
 そ、そんな話は聞いてませんっ!!私がいつ参謀になったんですか!!」

「今。俺が決めた」

「む、無茶苦茶です・・・本当に無茶苦茶です、この人は・・・」

「ハッハッハ!いいじゃねえか、嬢ちゃん!総長の狼牙がそう決めたんだから仕方ねえわな!」

「笑い事じゃありませんっ!!私、ずっと孤児院にいてそんなこと一度もやったことなんて・・・」

「まあまあ、落ち着きなよ美潮。アンタの思ったことを言うだけでいいんだ。
 それで全てが決まるわけじゃないし、それを判断するのがアタシ達の役目なのさ。気負わなくていいんだよ」

「そういうことだ、美潮。さあ、どうすればいいか遠慮なく言ってくれ。
 きっとこの中じゃ、お前が一番まともな考えを言えそうだからな」

「・・・私は、護国院、というよりも香辺と協力をしてニエリアから挟撃すべきだと思います。
 皆さんの話を聞いていたら、どうやらホーリーフレイムは少数精鋭の部隊が主戦力みたいですね。
 恐らく、私達キュウシュウの人間と現在戦争をしていることで、戦力の殆どが死魔根と支国の境界ラインに
 集中しているでしょう。そして、護国院は防衛しかしないと決め込んでいて・・・実際、防衛しかしないのでしょう。
 香辺側にホーリーフレイムは戦力を最小限しか配置していないのではないでしょうか。
 そこで、香辺に少しでいいから熊元に進軍してもらいます。無論、フリだけでも構いません。
 そうすれば、ホーリーフレイムの軍内は混乱し、戦力をどうしても熊元に回さざるを得ません。
 その隙を突いて、後は私達の軍を全てNAGASAKIにぶつければ、勝率は上がるのではないでしょうか」

「・・・・・・ほう」

「え・・・えっと、やはり、素人の生兵法でしたでしょうか・・・」

「いや、流石だ美潮。空也、お前はどうだ?俺はその作戦で問題ないと思うんだが」

「ああ、俺も問題ない。かなりいい作戦だと思うぜ。成功すればホーリーフレイムの連中が顔を蒼くするだろうな。
 だが、一つだけ難点がある。香辺が果たしてこちらに協力してくれるのかだ。何せ向こうは天下の護国院の傘下だからな。
 俺達に協力するってことは、護国院に背くってことだろう?それは香辺にとって大きなマイナスを背負うことになる。
 つまり、そのデメリットを覆すような利益がなければ、俺達に協力なんかしねえだろ。
 ホーリーフレイムどころか、護国院を敵に回してまで俺達の味方になるメリットなんかあんのか?」

「ヘッ、そこは俺の腕の見せ所だろうが。美潮が最高の作戦を発案してくれたんだ。
 それを形にするのが男ってもんだ。だろう、空也」

「ハッ、違いない!しかし狼牙よ、お前には本当に天の加護でもあるのかもしれんな。
 こんな天賦の才に溢れる良い女達がお前の周りに集るんだからな」

「おいおい、シャイラがいるお前に言われたって嫌味にしか聞こえねえよ」

「当たり前だ。世界で一番最高な女はシャイラだからな。こればかりは狼牙相手でも譲れんぞ」

「言ってろ。だが、美潮が良い女ってのは間違いないな。なあ、美潮」

「あ・・・あう・・・」













  ・・・












「それで、マリーシア。お前は俺や久那妓の知ってるマリーシアで間違いないな」

「はい。お二人がNAGASAKIから欧州へ向かったのをみんなでお見送りした後、
 一度みんなで闘京に帰ることになったんです。その最中に、気付けば死魔根に・・・」

「そうか・・・俺や久那妓、マリーシアには向こうの記憶はあるが、
 元スカルの美潮や空也、シャイラには無い。久那妓、どう思う?」

「・・・確証は無いが、一つだけ仮説がある。だが、本当に証拠が乏しい。
 まず、香辺に向かって恐らくそこで結果がでると私は思う。私の仮説が正しければ・・・」

「正しければ?」

「恐らく、香辺は喜んで狼牙に協力するだろうな。
 まず、行ってみないことには、何とも言えんが・・・」

「華苑に関してはどう思う。記憶があると思うか?」

「それは間違いないな。そうじゃないとお前への伝言の意味が通じんからな。
 初対面の相手にそのような愛想を尽かすなどという表現は使うまい。
 恐らく、こちらに来ないのは学連総長としての立場があるからだろう」

「成る程ね・・・まあ、こればっかりは仲間だった奴に会っていかないと駄目って訳か。
 面倒だが、それしか手はないか」

「あの・・・思ったんですが・・・」

「どうした、マリーシア」

「えっと、今現在、狼牙さんがここの総長なんですよね。多分、そのことは全国に広まったと思うんです。
 それで、私達のように記憶がある人は、何か事情が無い限り、狼牙さんのところに集ってくるんじゃないでしょうか。
 だって、みんなこの世界は自分達の知ってる世界とは違うって、すぐ気付いちゃいますから」

「成る程・・・確かにそうだな。他の奴等がいるかどうかも怪しいが、ゆっくり合流していこうぜ。
 それと、このことなんだが・・・美潮や空也には言わないほうがいいだろう。別の世界から、なんて余りに馬鹿げてる。
 変なコトを言って混乱させるよりも、今のままの方がずっといいからな」

「そうだな・・・言ったところで誰も信じないだろう。私もその意見に賛成だな」

「でも・・・その・・・美潮に・・・そのことは・・・」

「美潮には言うべき時がきたら俺から言うさ。
 だから心配するな、マリーシア。俺達は別にあいつ等を騙す為に嘘を言ってる訳じゃないからな」

「はい・・・そうですね・・・」












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