私の生涯は間違いなく魔術師だった。魔術師として生まれ、そして魔術師として育ち、魔術師として生を閉じた。














けれど、決して魔術師特有の孤独や寂しさなんかは感じなかった。
私には信じあえる家族と仲間がいたし、何より私は魔術師は魔術師でも『心の贅肉だらけの魔術師』だったのだから。
他の魔術師は陰で私を嘲り笑った。それは魔術師としてはあり得ないと。
名門遠坂も落ちたものだと。私という魔術師としての矛盾とも言える存在を決して認めようとしなかった。
それでも私は一流であり続けた。非道に徹し、感情を殺すことが一流の魔術師の定義なら
私がそれを塗り替えてやろうと。全てを背負ったままで他の魔術師を陵駕してやろうと。
こんな考え方をするようになってしまったのも全てはアイツのせいだ。
アイツの本当に意固地なまでの『正義』に私までが感化されてしまったのかもしれない。
でも、それでもいいかなって思ってしまったのは私自身なのだ。だから私は何も切り捨てなかった。
私の全てを決めてしまった『聖杯戦争』の後、私は一度とて立ち止まらなかった。
心の贅肉だらけの魔術師大いに結構。大切な相棒である騎士王は私を支えてくれた。
私の愛したアイツは最期まで一緒に生きてくれた。
だから私の生涯は魔術師。
ただ、他の魔術師と違うところがあるならば、そう――私は誰よりも幸せを手に入れた魔術師だった。

ただ、ただ一つだけの心残りがあった。
それは遠い昔、私と共に聖杯戦争に参加してくれて、
自分自身の『答え』を得た今もなおサーヴァントとして聖杯戦争に参加しているだろう赤い弓騎士。
アイツはきっと未だに『衛宮士郎』を殺すために何度も、何度も召還されているのだろう。無意味なだけの悲しい戦争。
私はそれが許せなかった。あんな皮肉ばっか言って最後の最後だけ素直になるような、
そんな馬鹿が未だに一人で苦しんでいるなんて頭にくる。
だから私は願った。英霊として、あの馬鹿げた聖杯戦争に参加する事を。
どこかの聖杯戦争でさっさと勝ち残って、『英霊エミヤ』を無限のループから開放してあげようと。
私は生きている間に英霊として見合うだけの結果は残せていた。魔術師ならば私を知らない者はいない程に。
だからこそ聖杯と私は契約が出来ると確信していた。
そしてそれは現実のものとなった。私は死んで、聖杯と契約した。
あの馬鹿を救う為に。私の愛した人の一つの未来だったアイツを救う為に。
いつの時代か、何処の誰のサーヴァントとなるのかは分からない。
けれど必ず私は勝ち抜いてみせる。どんな状況でも必ずマスターを勝利へ導いてみせる。












それが私、英霊『トオサカ』なのだから――













光が私を包み込む。透明だった私の存在が今現実のものとなっている感覚。
これが召還されてるってことなんだろうか。
手。足。顔。私の肢体の全てがはっきりと現界していく。
私が世界に侵される、世界が私に侵される。そんな不思議な感覚。

「ちぃっ!――馬鹿な、七人目のサーヴァントだとっ!?」

男は困惑に満ちた声をあげてサーヴァントである私が生誕したこの場所から退散した。
ここは土倉か物置か。そんな風景が広がっていた。
私を包む光の渦が消える時、私は目の前に座り込んだままのもう一人の男にとびっきりの笑顔を向けた。
月明かりが彼を照らす。彼のそのまだ幼さが残る顔がとても懐かしくて。
彼の何が起こったのか理解できないとでも言う様な表情がただ、面白くって。つい驚く事を忘れてしまった。
私は笑顔のまま自分でも驚くぐらい落ち着いた声で彼に言葉を紡ぐ。


「問うわ――」




眩しい位の月明かりが差し込む夜に。聖杯戦争と言う名の舞台の上で。






「――あなたが私のマスターかしら?」






私と士郎は再び出会った――。
















戻る












戻る

inserted by FC2 system