二話
人が夢を見るのか?夢が人に見せるのか?
――「人と夢」
「ごきげんよう、蓉子さん」
「ごきげんよう、江利子さん。どうかしたの?」
蓉子は、うれしそうな顔をして近づいてくる江利子さんに尋ねた。
「とぼけちゃって。わかってるんでしょ。どうして私に言ってくれなかったの?」
「っえ。――本当に分からないわ。なんのこと?」
江利子さんから疑いの視線が感じられた。
「しょうがないな。えっと、蓉子さんが紅薔薇のつぼみとぶつかり、その拍子に持っていたバケツの水を零したが、
ぶつかってきたことを良いことに紅薔薇のつぼみに継母な勢いで拭かせ」
「ちょっと待って。なにそれ。み、見たの?き、聞いたの?作った?」
蓉子は、江利子さんの声を遮った。
「継母と拭かせたは作った。それ以外はこれ」
江利子さんは、一枚の紙を見せた。
「紅薔薇のつぼみに妹か!!出会いは唐突に」
初めて本当に言葉を失ったと、蓉子は思った。それは、新聞部が出している「リリアンかわら版」だった。
内容はほとんどが事実なのだが重要なところがぼかしてあり想像させやすくなっていた。
「で、実際はどうなのよ?」
江利子さんは目を輝かせながら聞いてきた。江利子さんはおもしろいものや変わったことが好きなのだ。
「どうって......」
いつの間にかクラスは静かになっていた。
蓉子がどう答えればいいか困っていた。
「......えっと」
「ごきげんよう。蓉子ちゃんはいますか?」
「っロ、紅薔薇のつぼみ」
祐巳さまの急な登場にクラス全体がついて行けないようだった。
「ご、ごきげんよう。紅薔薇のつぼみ。蓉子さんですか」
「ええ。あっ、蓉子ちゃん。――ちょっといい?」
祐巳さまは、蓉子に気づき、ホッとしていた。
「はい。ええっと、祐巳さま。どうかしましたか?」
「んっと。ちょっといい?」
祐巳さまは複雑な表情を浮かべながら聞いてきた。
「分かりました」
蓉子がそう言うと祐巳さまは歩き出した。
祐巳さまが止まったのは人があまり来ない廊下の端のところだった。
そして、祐巳さまは振り返った。
「ええっとね。蓉子ちゃんは......」
祐巳さまの言葉か途切れる。
「蓉子ちゃんはロザリオ受け取ったこと後悔してない?」
祐巳さまは悲しそうに言った。
「祐巳さまは後悔しているんですか?」
「そんなことないよ。でも、蓉子ちゃんが傷つくのを見たくない」
リリアンかわら版のことだと蓉子は思った。
「祐巳さまは守ってくれないんですか」
「守るよ」
「それで、良いじゃないですか」
「姉妹にも流れで私が無理矢理みたいなところなったし」
「それが、どうしたんですか」
「でも......」
「でもじゃないんです。私は祐巳さまが好きなんです」
「っえ」
祐巳さまの頬が赤くなった。多分蓉子もだと思う。言っててちょっと恥ずかしいし。
「祐巳さまが好きなんです。姉妹にはなんとなく流れでなったかもしれません。
でも、私は自分の意志で姉妹になりました。私は、祐巳さまと一緒居たいんです。それじゃ、駄目ですか」
「だ、駄目じゃない。分かった。私、一生懸命蓉子ちゃんを守るから」
祐巳さまは泣きながら蓉子を抱きしめてた。祐巳さまが泣きやむまでの間蓉子はずっと抱きしめられたままだった。
「恥ずかしいところ見られちゃったな」
「いえ。可愛かったと思います」
「この、言ったな」
そう言って祐巳さまは笑ってくれた。
祐巳さまには笑顔が一番だと蓉子は思う。
「あの、そのいいですか?」
「え。――あっ。うん、いいよ」
「......お姉さま」
「蓉子」
「お姉さま」
「蓉子」
少しの間、二人は相手の名前を呼び合い続けていた。
end...
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