12.仲間を求めて










「・・・つー訳で、俺は今から旅に出る。後の事は空也、お前に任せた」

狼牙の言葉に、一同は絶句する。
無理もない。彼、斬真狼牙が口にしたことは余りに突拍子も無い提案だったからだ。

彼が打ち出した今後の方針は、キュウシュウの地盤を磐石のモノにし、
護国院と正面から打ち合えるくらいの力を蓄えるというもの。それに関しては誰一人異議を唱えるものはいなかった。
しかし、その為に彼の出した案がこれまた常識では考えられないモノなのだ。
その案とは、有能な仲間を集める為に、総長である狼牙が直々に全国を回り、旅をしてくるというものだった。

「あ?どうしたよ空也も美潮もそんな顔して。
 俺の言ってること、何かおかしかったか?」

「いえ・・・おかしい以前の問題です。貴方、本当に馬鹿ですか。
 総長が席を空けて仲間探しの為に自ら全国を歩き回るなんて前代未聞です」

「あー・・・悪いが狼牙、俺も美潮と同じ意見だわ。
 流石に総長が不在ってのは色々とマズイんじゃねえか?
 なんせキュウシュウの争いが終結したばかりだからな。護国院がいつ動いてもおかしくない状況だぜ?」

「だからこそ、だよ。護国院と正面きって戦おうと思ったら、今のメンツじゃ足りねえんだよ。防戦ならともかくな。
 それに、出来るなら治安や政治に強い文官を増やしたい。これ以上美潮にばかり負担をかける訳にもいかねえしな。
 だったら、こうしてじっと有能なヤツが来るのを待つより、探しに行った方が早いだろ」

「まあ、確かにそうだが・・・」

「いいじゃないか空也。総長の考えを信じ、助けになるのがアタシ達の仕事だろ?」

未だに色良い返事を返さない空也だが、シャイラに言葉をかけられ、已む無く態度を軟化させる。
狼牙はニヤリと笑い、シャイラに向かって親指を立て、シャイラも笑って狼牙に応える。

「ですが狼牙殿、お一人でキュウシュウの外へ出るのは些か無用心ではないか?
 勿論狼牙殿の強さは知っているが、それでも貴方は我等の総長なのだ。御身にもしもという可能性もある」

「いや、俺は一人で旅に出るつもりなんかねえよ。
 仲間を集める目的が第一なんだが、状況によってはナイトメア・アイズの中核をぶっ潰すつもりだからよ。
 その為にも何人か腕の立つ奴等を連れていきたい」

「おいおい、よりによってナイトメア・アイズだと?
 お前、相変わらず無茶苦茶だな・・・スカルやホーリーとは規模が違うんだぞ」

空也が溜息をつくのも無理は無い。それほどまでにナイトメア・アイズは巨大な軍なのだ。
総長のカミラ・バトリーが率いるその軍は勢力傘下学園数666、総学生数66666を誇るPGGに次ぐ大軍だ。
そして何より、彼等は吸血鬼軍団とも呼ばれ、ある種話し合いが通じない分PGGより厄介な存在なのだ。

「いや、割かしそうでもねえよ。確かに軍として戦うにはナイトメア・アイズは性質が悪い。
 だが、今回の目的はカミラ・バトリーをひっ捕らえることだからな。アイツを正気に戻すことが最優先だ。
 アイツさえ抑えれば他の連中は自然崩壊する。後のことはホッカイドウの奴等がなんとかするだろ」

「何だ?お前、ナイトメア・アイズの総長と知り合いなのか?」

「ああ。アイツはただ操られてるだけだけで、本当のアイツは良い女だぜ。
 まあ、そういう訳で別にナイトメア・アイズと戦争しに行く訳じゃねえから安心しろよ。
 それで、今回の旅に同伴して欲しいのは・・・」

狼牙が声に出す前に、久那妓と扇奈が立ち上がる。
それを見て、空也は軽く苦笑した。

「久那妓はともかく、そっちの新入りのお嬢ちゃんも腕が立つのか」

「ふふ、試してみますか?一応、少しは心得があるつもりですけど」

「いや、今は止めとくわ。確かに心動かされる提案だがな。
 しかし狼牙、お前は本当に何かの星の下に生まれてるのかもしれんぞ」

「へへっ、褒めても何もでねえぞ。
 それで・・・美潮にマリーシア、お前たちも一緒に来てくれねえか?」

狼牙の言葉に、美潮とマリーシアは驚き言葉を失う。
それも当然で、彼女達は狼牙の求める腕の立つ人材だと自分で思っていなかった為、予想だにしていなかったのだ。

「何驚いてんだよ。マリーシアは充分腕が立つし、美潮は参謀だろう。
 どうせいつかは戦うことになる奴等だしな。情勢をその目で直接知ったほうが後々為になるだろ」

「それは・・・確かにそうですが」

「えっと・・・あの、いいんですか?私までついて行っても?」

「構わねえよ。着いて来てくれるか?」

狼牙の言葉にマリーシアは嬉しそうに何度も首を縦に振る。
そして、それとは対照的に美潮はようやく狼牙の提案に折れたのか、仕方がないとばかりに溜息をついた。

「後はジャンヌ、お前も来てくれねえか?
 お前も一度キュウシュウの外を知っておいた方がいいだろ。それにお前なら、強さとしてはこれ以上ないからな」

「無論、狼牙殿が駄目だと言ってもご一緒させて頂く。
 貴方は我等の希望だ。御身を危険から守るのが私の役割なのだから」

頭を下げるジャンヌに、狼牙はおいおいと苦笑する。
どうも仲間になって以来、彼女は狼牙を崇拝する傾向にあった。それも仕方ないことなのかもしれないが。

「しかしジャンヌ様、それでは貴女の身が危険ではありませんか。
 狼牙殿を守る為とはいえ、貴女の身に事があっては本末転倒です」

「バイラル、心配するな。私が狼牙殿以外の人間に遅れを取ると思うか」

「ですが・・・」

あくまで懸念するバイラルに、ジャンヌはどうしたものかと溜息をつく。
最早ホーリーフレイムは解体し、ジャンヌは総長ではなくなったのだが、
彼等のジャンヌへの崇拝が消えた訳ではなかった。彼女が彼等異国人にとって希望であることに変わりはないのだから。

「ならば、せめて共にエクレールをお付け下さい。
 エクレールならば腕も立ち、ジャンヌ様や狼牙殿の足手まといになることもありません」

「え・・・えええ!?わ、私ですか!?」

アイレーンの言葉に、その当人であるエクレールが思いっきり驚きの声を上げる。
まさか自分の名がこの場面で出るなどとは思っていなかったのだろう。

「・・・という訳だ、狼牙殿。誠に申し訳ないのだが、エクレールの同伴を認めて貰えるだろうか」

「あ?俺は別に構わねえよ。ただ・・・大丈夫なのか?」

「問題ない。エクレールは若くして聖騎士の称号を受ける程の腕前だ。それは私が保証する」

「いや・・・そうじゃなくてよ」

言葉を濁しながら、狼牙は視線をエクレールの方へと向ける。
そこには、狼牙達の会話も耳に入っていないのか、エクレールが久那妓の方を何度も見ては視線を逸らしていた。

「・・・まあ、こればっかりは当人同士で解決するしかないか。なあ久那妓」

「一体何の話だ?」

「・・・何でもねえよ。ただ、エクレールには根性で恐怖を克服しろとしか言えねえなと思っただけだ」

要領を得ないといった表情で首を傾げる久那妓に狼牙は苦笑する。

「しかし、美潮やジャンヌが抜けるとなると少し大変になるねえ。
 こりゃアタシ達も頑張らないといけない訳だ」

「ああ、悪いけど頼むぜ。すぐに頼りになる援軍を送ってやっから。
 もし護国院が攻めてきたら香辺の五十嵐と協力して防衛に専念してくれ。その時はすぐ戻ってくるからよ」

狼牙の言葉に、一同は力強く頷いた。
しかし、狼牙は彼等が護国院に負けることなど一切考えていなかった。
何故なら空也を初め、彼等はキュウシュウの精鋭達であり、今こうして手を取り合った彼等に敗北などありえないのだから。















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