15.花散る嵐の如く










「さて、と。闘京に着いた訳だが・・・どうする?」

護国院エリアを抜け、闘京に辿り着いた狼牙は何か悪戯を思いついた子供のように楽しそうに笑う。
その笑顔に、美潮は背筋に何か冷たいものが走る感覚に襲われた。以前、確かこのようなことがあったような。
そんな既視感を振り払い、美潮は狼牙に思ったままの言葉を紡ぐ。

「どうするも何も、聖城学園に行くのではないのですか?
 そこには狼牙の仲間の方々がいると聞いたのですが」

「いや、それもそうなんだがな。今の闘京の状況を見ろよ。どう思う?」

現在の闘京は見事に激戦地と化していた。
護国院が擁する戦争寺学園に、PGGをバックに控えた獄煉、そして聖城学園。
その三つの争いによって混沌状態に陥っているのだ。

「どうと言われても・・・私は早く聖城学園の方々の力になるべきかと思うのですが。
 私達が合流すれば少しは均衡のバランスが破れるのでは」

「違うな。それでは恐らく聖城の奴等を仲間にするのに後々面倒なことになる。
 それでは私達はあくまで聖城の独立に対する協力者でしかない。いくら咲苗達が言ったところで、
 『これから総長は斬真狼牙となり、闘京は狼牙軍団の一部になります』などと聖城の生徒達が
 簡単に納得してもらえる筈が無いからな。だからこそ、咲苗達は両軍に対し、専守防衛に務めているのだろう」

久那妓の言葉に、狼牙はニヤリと笑い返す。
そして、久那妓に続くように扇奈が美潮に分かるように言葉を続ける。

「闘京の人々は求めているんですよ、協力者ではなくこの闘京の戦乱を終わらせてくれる救世主を。
 だったら、私達は聖城の力に頼ることなく、戦争寺と獄煉を叩かなければいけませんよね」

扇奈の説明を聞いて、美潮は自分の感じた既視感が的中したことを感じた。
・・・そう、このような無茶苦茶な作戦を自分は知っている。それは、彼と初めて出合った時のこと。
狼牙はスカルサーペントを落とすときも同じような強硬手段に出たのだ。

「ま、心配するなよ美潮。今回は皆がいるんだしスカルの時ほど無謀じゃねえよ。
 最近デスクワークばかりでちょっと暴れたりなかったところだしな。このくらいは構わないだろ?」

「もう・・・本当、狼牙は無茶苦茶です。
 私は止めませんよ。どうせ止めても無駄だって分かってますから」

フンと怒った様な仕草を見せる美潮に、狼牙は苦笑する。
そして、仲間達を見渡し、異論がないかを尋ねる。

「私は構わない。狼牙殿の為に、我等の未来の為に剣を振るおう」

「私も問題ありませんわ。闘京を押さえるなら、それが一番だと思いますし」

ジャンヌ、華苑と続き、マリーシアとエクレールは頷いて微笑みあう。
全員賛成を確認し、狼牙は心から楽しそうに笑った。それこそ楽しすぎて興奮が抑えられないかのように。

「それじゃ、早速パーティーの始まりだ。この闘京にデッカイ花火を打ち上げようぜ!」









 ・・・










獄煉の納める地、千夜堕区。そこでは今、激しい嵐が吹き荒れていた。
それは彼等獄煉とPGGの混成部隊の数からしてみれば微々たるモノ。
だが、彼等にとって誤算だったのは、その嵐が自分達を簡単に飲み干すほどに強靭な勢いだったことだ。

「ひ、ひるむな!!相手はたった四人だぞ!?何故だ!?何故止められん!?」

「くそ!!あがああああ!!」

吹き荒れる銃弾を難なく避け、ジャンヌの一閃が多くの兵達を屠っていく。
その剣技は神技。それはある種、芸術の域まで完成された剣舞。ゆえにその疾風は誰にも止められはしない。

「撃て!!」

「・・・愚かな。銃如きで今の私を止められると思うな」

打ち、払い、薙ぎ。彼女の全てが美しい。まさに戦女神に相応しいその姿。
だが、その美は彼女一人によって生み出されているものではない。
彼女の奏でる演奏を傍で更に美しいものへと昇華させる一人の少女の存在が、ジャンヌをそうたらしめているのだ。

「ぐあああ!!!」

「下がりなさい!ジャンヌ様にはこのエクレールが一切触れさせません!」

戦乙女の傍には聖騎士あり。エクレールの流れる剣がまた一人と確実に敵を裂いていく。
ホーリーフレイムにその人ありと言われた二人の剣を止めることなど、誰にも出来はしないのだ。

「あらら・・・二人のおかげで私達の出番がなくなっちゃいそうですね」

「まあ、そう言うんじゃないよ。二人はあのホーリーフレイムの幹部だった連中だろ?
 あの二人の実力は確かなんだ。あの二人が本気を出せば私達の仕事もその分減るってもんさね」

「もう、京子さんったら・・・」

ジャンヌ達から少し離れた場所で、扇奈と先程彼女達と合流した女性――旋風寺京子が笑いあう。
扇奈達が獄煉を攻めた時、まっさきに彼女はこちら側についたのだ。あたかもずっとこの機を待っていたかのように。
否、実際に狼牙達が来るこの時を待っていたのだ。何故なら彼女にも『あちら』の記憶があるのだから。
そんな二人を他所に、ずっと無言だった久那妓がその場から一歩踏み出した。

「悪いが、私も行かせて貰う。
 狼牙ほどではないが、私も少々暴れたり無くてな。あの戦車部隊は私に任せてもらおう」

言うのが早いか、駆けるのが先か。
二人が気付いた時には、こちらに向かってきていた戦車が一台向こうで大破炎上をみせていた。

「若いねえ・・・本当、みんな元気が有り余って良い事さ。
 こっちの世界に来ても久那妓の嬢ちゃんは相変わらずだねえ」

「うふふ、相変わらずなのは久那妓さんだけとは限りませんよ?」

笑って、一歩踏み出す扇奈に、京子は再び苦笑を浮かべた。
瞳を閉じ、扇奈はそっと刀を抜く。彼女の向かう先には獄煉の本隊、バイクの集団。

「・・・さて、久方ぶりに舞うと致しましょうか」

今頃、戦争寺で暴れているあの人に負けないように。
幾度の戦いを乗り越えてきた少女達を止められるものは、最早この地区に存在しない。
今はただ、吹き荒れるその嵐が止むのを彼等は祈ることしか出来なかった。

















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