18.緋皇宮神耶










闘京を勢力下に入れ、狼牙達は予定通り最初の目的であったナイトメア・アイズの領内へと向かった。
現在のメンバーは出発時と同じ顔ぶれだった。聖城にいた仲間達に、華苑が海王学園への案内役を請負った為だ。
流石に見知らぬ顔である彼等がゾロゾロと海王学園に向かっても、彼等のことを知らない空也達は困惑するだろう。
その配慮から、元々の遠征メンバーではなかった華苑が自分から言い出したのである。
アオモリに到着し、美潮は不思議そうに周囲を見回しながら狼牙に口を開いた。

「ナイトメア・アイズの領域内・・・人の住む街にしては、人の気配が見られませんね」

「吸血鬼化が酷いからな。だがまあ、まだここらはマシな方さ。
 さて、まずはシオンに会わなきゃいかんのだが・・・どうやらそう簡単にはいきそうにないな、オイ」

狼牙の言葉に、全員が戦闘態勢を整える。
うめき声と共に、彼等の周囲に吸血鬼化した人々が現れ、狼牙達を今にも襲わんとしていたのだ。

「ほう・・・これが吸血鬼になった者達か。なんと悪趣味な」

「当然だ。これの大元となっている人間が腐っている程に悪趣味だからな。
 狼牙、さっさとカミラを助け出して腐りきった吸血鬼を葬るぞ」

久那妓の言葉に、狼牙は少し驚きながらも『ああ』と頷いた。

「・・・なんだお前、やけに乗り気じゃねえか」

「逆だ。乗り気じゃないからこそ早く終わらせたいんだ。
 こんな下衆びた真似をして己が力を持っていると過信した屑に
 求婚された過去など思い出したくもないからな」

「あー・・・あったな、そんなこと。
 まあいい、とにかく今はこの場をさっさと片付けるぞ」

狼牙の言葉を皮切りに、久那妓とジャンヌが風となって敵の中心へと切り込んでいく。
それに続くように扇奈とエクレールが彼女達の後詰めを果たす。そして後衛をマリーシアと美潮が固める。
狼牙は後衛の二人の傍につき、敵を迎撃することにした。

「ちっ・・・倒しても倒しても次から次に沸いてきやがる。
 これはちょいとばかし面倒だな」

「ですが、やるしかありません。
 ここで足止めされる訳にはいきませんから」

狼牙の愚痴に、美潮は操舵輪を思いっきり敵に叩きつけながら淡々と答える。
美潮はあまり戦闘をしないように思えるが、彼女も一応特体生である為、一応戦闘は一通りこなせる。
しかし、久那妓や扇奈といった人達に比べるのは少々酷ではあるが。

「・・・なあ、前から気になってたんだが、その操舵輪は何だ?」

「空也さんとシャイラさんから貰いました。素手で戦えるほど、私の特体生能力は高くありませんし、
 お二人に相談したところ、私用の武器を作ってくれまして。・・・というか、今頃気付いたんですか?」

「あ、いや・・・なんかいっつもそれを背中に背負ってたから、気になってはいたんだが・・・
 つーか、空也の野郎、この戦争が終わったら絶対美潮を海賊に勧誘する気だな・・・オラぁ!!」

狼牙の拳がまた一人と吸血鬼の屍を生み出していく。
戦陣を久那妓達が切り開いている為、狼牙達の元へ現れる敵こそ少ないが、
このまま消耗戦を続けられれば、流石にこちらが参ってしまう。どうしたものかと狼牙が考え始めた時だった。

「あがあっ!!?」

「ぐがぁ!!」

「あ?何だ?」

狼牙達から離れた場所にいた吸血鬼の集団が次々にバラバラに裂かれ、宙に舞っていく。
そして、その嵐は一番近くにいたジャンヌへと襲い掛かった。

「ちぃっ!!」

「・・・止められた・・・」

敵の放った一閃をジャンヌは剣で受け止める。
だが、突然の攻撃だった為、勢いを殺しきれずに後方へと飛ばされた。それ程の威力を持った一撃だった。
ジャンヌに一撃を放った人物はそのまま宙で空転し、地面に着地する。そしてその人物は狼牙の良く知っている人物だった。

「お前・・・神耶じゃねえか!」

「・・・斬真狼牙・・・迎えに来た」

――緋皇宮神耶。それが彼女の名前だった。向こうの世界では狼牙達と共に戦場を戦いぬいた少女。
狼牙に一言だけ告げ、神耶は再びジャンヌの方へと駆け抜ける。
彼女の鞄から繰り出される爪撃をジャンヌは剣で弾いていく。

「ちょ、ちょっと待て神耶!!そいつは敵じゃねえ!!ジャンヌはこっちの仲間だ!!」

「・・・こいつは・・・私達の・・・敵だった・・・神を信じている・・・馬鹿・・・
 ・・・しかも・・・かなり強い・・・だから先に・・・殺しておいたほうが・・・いい」

「そりゃ向こうの世界の話だろうが!!こっちの世界じゃ仲間になったんだよ!!」

「・・・そう・・・なの・・・?」

狼牙の言葉に、神耶は納得したのか攻撃をやめる。
そして、再び吸血鬼の群れの中へと身を投じた。

「はぁ・・・狼牙殿、あの娘は味方と考えていいのか?
 先ほどは本気で私を殺すつもりだったようだが・・・」

「・・・悪い。ただ、アイツは俺達の仲間だ。まあ・・・少し無愛想なところもあるが、仲良くしてやってくれ。
 ・・・こいつらを全部片付け終えたらなっ!!!」

ジャンヌに言い、狼牙もまた再び吸血鬼狩りを再開させる。
神耶の活躍もあり、時間はかかったものの、狼牙達は吸血鬼の群れを片付けることに成功した。
狼牙は軽く息をついた後、神耶の方へと視線を向けなおした。

「よう、久しぶりだな・・・って言いたいところだが、さっきお前は俺を迎えにきたって言ったよな。
 俺を何処に案内するつもりだ?」

「・・・シオンの・・・ところ・・・私は・・・シオンに・・・頼まれた・・・ついてきて」

もう話す事はないと言わんばかりに、神耶はすたすたと歩き始めた。
何が何やら全く分からないという表情を浮かべる美潮やジャンヌ達に、狼牙は苦笑を浮かべるしかなかった。
神耶らしいといえば神耶らしいのだが、初めての人間には彼女が全く理解できないだろうと。












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