一話
それは、秋が近づき肌寒くなってきた薔薇の館での出来事でした。
「祐巳さま遅いですね」
「そうね。何か用事があったのではないかしら」
「んー、用事があるとは聞いてないけどなー」
乃梨子の独り言に返してくれたのは、とっても大好きな志摩子さんと、
つまらなそうな顔をしてうなって、どう頑張ってもお嬢さまとは言い難いさま子の由乃さまだった。
今の薔薇の館には黄薔薇の蕾、白薔薇姉妹と紅薔薇さまがいて、あといないのは紅薔薇の蕾と黄薔薇さまだった。
そして、この時はまだ私たちに核弾頭並の爆弾が降ってくるなんて思ってもいなかった。
それから、数十分後のことだった。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、祐巳」
「ごきげんよう、祐巳さん」
「ごきげんよう、祐巳さま」
「ごきげんよう」
祐巳さまは何故かテンションが高かった。
でも、祐巳さまが来たのはいいが・・・・・・。
「祐巳さま、どうして運動着なんですか」
「ちょっとあってね」
祐巳さまは苦笑いしながら答えた。
「ちょっとってなに。どんなことっ」
「っえ。どんなことって。――答えなきゃ駄目かな?」
「駄目ってことはないけど、言えないことなの?」
暇をしていた由乃さまがその話にすぐ食いついたが、祐巳さまの返答にちょっと悲しそうな顔をしていた。
「言えなくは無いけど。――ちょっと水に濡れちゃって」
「水に?」
「うん。歩いてたらね」
「祐巳」
「はい、お姉さま」
祥子さまは由乃さまと喋っていたところに声をかけた。
「その、後ろの子はだれ?」
「あ、そうでした」
祐巳さまは後ろにいた、一年生(だと思う)を前に出した。
黒髪でボブカット。表情がほとんど変わっていない。(無表情キャラで被ってるかも)
「お姉さまに紹介します」
「妹です」
乃梨子はその時本当に時が止まったと思った。
そして、一番最初に動き出したのは由乃さまだった。
「本当に!いつ?どこで?名前は?馴れ初めは?」
新聞記者顔負けの勢いで質問する。
「ええ、聞きたいわ」
「祐巳。い、いつ知り合ったの」
志摩子さんと祥子さまも、それに続いた。でも、祥子さまはちょっと引きずっているようだった。
「えー、出会いは一時間くらい前に廊下でかな。名前は・・・・・・。自己紹介して」
「一年菊組二十五番水野蓉子です」
「蓉子ちゃんだよ」
「ちょっと待って。名前知らなかったの!一時間!」
「うん。さっきあったばっかりだったから」
「っええ。なんで、去年の祥子さま祐巳さんをやってるの。なんで、それで、姉妹なの?」
「落ち着いて、由乃さん」
興奮している由乃さまを祐巳さまが頑張って鎮めようとしている。
「落ち着いていられるわけないでしょ。ロザリオはどうしたの」
「っえ。ロザリオ?」
蓉子さんが、すっと首もとからロザリオを出して由乃さまへ見せる。
「そう。」
由乃さまはロザリオを見たことで言うことがなくなったのか少しだけだけど冷静さを取り戻していた。
「あの、祐巳さまよろしいですか?」
「うん、いいよ乃梨子ちゃん。どうしたの?」
「えっと、ようこさんを妹にした切っ掛けを教えてもらえますか?」
「さっき廊下を歩いてたらバケツを持ってた蓉子ちゃんとぶつかっちゃって水被っちゃったの」
そう、祐巳さまはすこし恥ずかしそう言う。
「だから、祐巳さん運動着なのね」
「そうなの。で、着替えた後どうにも蓉子ちゃんが『ごめんなさい』『ごめんなさい』って言って聞かなくて。
『もういいよ』って言ってたんだけど『だめです』って聞かなくて困ってたの。そしたら妙案が浮かんだの」
「「「「っえ」」」」
みんながまさかと思った。
「もしかして」
「うん。じゃー妹になってって言ってロザリオを出したの」
みんな、どうにでもなれと思った。
「それでは・・・・・・。蓉子さんは了承したんですね」
乃梨子は確認の意味を込めて訪ねた。
「はい。私、水野蓉子は祐巳さまの妹になることに頷きました」
淡々とした返答に乃梨子はすこし泣きそうになった。
「わ、わかったわ。ゆ、祐巳が選んだのだからなにも言わないわ」
「お姉さま」
祐巳さまはうれしそうにしてますが、気づいてますか。祐巳さま、祥子さま無理してますよ。
「お姉さまにも祝福してもらえたし、良かったね。蓉子ちゃん」
でも、気づいてないし。
「はい。祐巳さま」
「違うでしょ。祐巳さまじゃない」
「え」
「んーわかんないかな?姉妹なんだよ、私たち」
「――あっ」
祐巳さまが何のことを言っているのかわかったのか蓉子さんの顔が赤くなっていった。
「・・・・・・お姉さま」
「うん。これからよろしくね、蓉子」
「はい、これから、よろしくお願いします。お姉さま」
end...